2026/10/19 07:00
「もう少し、時間をかけよう。」
ごはんをつくっていると、そんなふうに思うことがあります。
早く仕上げたい気持ちは、もちろんあります。
待ってくださっている方もいる。
次の仕込みもある。
工房でやることは、毎日たくさんあります。
でも、料理には、急いでも仕方のない時間があります。
J’s Kitchenでつくっている犬たちのごはんも、同じです。
例えば、鹿肉。
山梨県産の鹿肉を使った煮込みには、すね肉や肩まわりの筋肉、アキレス腱など、さまざまな部位を使っています。
どれもしっかりとした組織を持つ部位です。
生の状態では、簡単にはほぐれません。
特に筋や腱は、指で引っ張ったくらいではびくともしない。
でも、時間をかけて加熱すると、少しずつ変化していきます。
硬かった組織がやわらかくなり。
肉がほぐれ。
筋や腱に含まれるコラーゲンの一部がゼラチンへと変化していく。
圧力鍋を使えば、普通の鍋より短い時間で調理できます。
それでも、圧力をかけた瞬間に完成するわけではありません。
素材に合わせて、必要な時間をかける。
そして、仕上がりを確認する。
そこは省略できない工程です。
魚も同じです。
富士の介。
甲州ワイン鱒。
岩魚。
そして、季節ごとに仕入れるさまざまな国産の魚。
頭や中骨、皮などを使ってボーンブロスをつくるとき。
魚の種類や大きさによって、仕上がりは変わります。
脂の乗った魚。
比較的あっさりした魚。
頭が大きい魚。
骨のしっかりした魚。
同じように調理しても、香りも、旨味も、ブロスの状態も違います。
圧力調理で骨や頭がやわらかくなるまで加熱することもあれば、素材の特徴に合わせて仕込み方を変えることもあります。
大切なのは、ただ長く煮ることではありません。
その素材に必要な時間を見極めること。
長ければ長いほどいい、というわけでもないのです。
ジャーキーづくりにも、時間が必要です。
鹿肉。
鹿レバー。
魚。
そして、秋鮭の白子。
素材によって、水分の量も、厚みも、脂の含まれ方も違います。
丁寧に下処理をして。
大きさや厚みを整えて。
低温でじっくり乾燥させていく。
乾燥が進むにつれて、素材の見た目も香りも変わっていきます。
水分が抜けて、少しずつジャーキーらしくなっていく。
でも、表面が乾いて見えるからといって、それだけで完成とは限りません。
中まで十分に乾燥しているか。
仕上がりにばらつきはないか。
素材の状態を確認しながら進めていきます。
乾燥機の設定時間は、一つの目安。
最後に確認するのは、実際の仕上がりです。
ごはんづくりには、手を動かしている時間と、待っている時間があります。
包丁を使っている時間。
素材を洗ったり、下処理したりする時間。
鍋に材料を入れる時間。
そして、加熱や乾燥が進むのを待つ時間。
待っている間、ずっと鍋の前に立っているわけではありません。
別の素材を仕込んだり。
次の準備をしたり。
袋詰めの作業をしたり。
工房では、いくつもの作業が同時に進んでいます。
でも、時間が来たら確認する。
必要なら、もう少し続ける。
よければ、次の工程へ進む。
その繰り返しです。
料理をしていると、時間には二つの意味があるように感じます。
一つは、作業を進めるための時間。
もう一つは、素材が変化するための時間。
前者は、工夫すれば短くできることがあります。
道具を使ったり。
手順を見直したり。
準備を整えたり。
私たちも、工房での作業を少しずつ改善しています。
でも、後者は少し違います。
肉がやわらかくなること。
ブロスに旨味が移っていくこと。
ジャーキーから水分が抜けていくこと。
それぞれに必要な条件と時間があります。
もちろん、温度や圧力を調整することで、調理時間を変えることはできます。
ただ、早く終わらせることだけを目標にはしたくありません。
きちんと仕上げること。
それが、まず先にあります。
J’s Kitchenの商品は、完成すると袋に詰めて冷凍したり、乾燥した状態で包装したりして、皆さんのところへ届きます。
手に取ったときには、もう調理は終わっています。
どのくらい煮込んだのか。
乾燥機の中で、どんなふうに変化していったのか。
袋の外からは、なかなか分かりません。
でも、その一袋ができるまでには、いろいろな時間が流れています。
仕入れた素材を見て。
どう調理するか考えて。
下処理をして。
火を入れて。
待って。
確認して。
仕上げていく。
派手なことではありません。
料理をつくるなら、当たり前のことばかりです。
でも、その当たり前を、一つひとつ続けていきたいと思っています。
早くできることが、悪いわけではありません。
時間をかけることが、必ずしも正しいわけでもありません。
大切なのは、その素材に合った方法を選ぶこと。
短い時間で仕上げた方がいいものもある。
じっくり時間をかけた方がいいものもある。
そして、待たなければ分からないこともあります。
今日も精進湖の工房では、圧力鍋が動いています。
乾燥機も、静かに仕事をしています。
その間に、私たちは次の素材を準備する。
ときどき様子を確認して。
「もう少しかな。」
「うん、いい感じ。」
そんなことを繰り返しながら。
急がずに。
でも、ただ時間をかけるのでもなく。
素材に必要な時間を、大切にする。
今日も、そんなごはんをつくっています。
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