2026/09/28 07:00
鍋を開ける瞬間。
何度やっても、少し楽しみです。
圧が抜けて。
蓋を開ける。
ふわっ。
一気に、工房の香りが変わります。
鹿を煮込んだ日の、シチューのような深い香り。
魚を煮込んだ日の、旨味をたっぷり含んだ香り。
「今日も、いい感じ。」
そんな言葉が自然に出ることがあります。
もちろん、レシピはあります。
使う素材の量。
加える水の量。
温度。
時間。
いつも同じように仕上げるために、決めていることがあります。
でも、相手にしているのは自然の素材です。
鹿の骨なら、大きさも違う。
肉のつき方も違う。
筋や腱の入り方も違う。
脂の量だって、毎回まったく同じではありません。
魚も同じです。
同じ種類の魚でも、大きさが違う。
脂の乗り方が違う。
頭や骨についている身の量も違う。
だから、
「時間になったから完成。」
ではありません。
鍋を開けて、まず見る。
香りはどうだろう。
色は。
肉のやわらかさは。
骨や筋は、どうなっているだろう。
ブロスの仕上がりは。
一つずつ確認します。
圧力鍋の中では、長い時間をかけていろいろな変化が起きています。
しっかりしていた肉が、ほろっとやわらかくなる。
硬かった筋や腱が、やわらかくほどけていく。
骨や皮などから、旨味がブロスへ溶け出していく。
魚も、圧力をかけることで頭や中骨まで状態が大きく変わります。
仕込む前とは、まったく違う姿になって鍋から出てくる。
その変化を見るのも、ごはんづくりの面白いところです。
そして、鍋を開けた瞬間の香り。
これは、写真にも商品説明にもなかなか残せません。
工房にいる私たちだけが最初に感じるものです。
蓋を開けた瞬間、
湯気と一緒に香りが広がる。
少し離れたところで別の作業をしていても、
「あ、開けたな。」
と分かるくらい。
つい、お腹が空いてくることもあります。
でも、ここで終わりではありません。
鍋から出して。
状態を確認して。
必要なものはさらに細かくして。
一つひとつ確認しながら、商品として仕上げていきます。
そして袋に詰めて、冷却して、冷凍する。
皆さんのところへ届く頃には、あの湯気はもうありません。
工房いっぱいに広がった香りも見えません。
いつも見ていただいているのは、そのずっと後の姿です。
でも、その一袋ができる途中には、
こんな瞬間があります。
「どうかな。」
と思いながら、鍋の蓋を開ける。
ふわっと湯気が上がる。
香りを感じる。
中を覗く。
そして、
「うん、いい感じ。」
今日もまた、そんなところから一つのごはんができあがっていきます。

