2026/08/14 09:16

鹿の煮込みをつくっている日は、工房いっぱいにおいしい香りが広がります。
シチューのような。
コンソメをじっくり煮込んでいるような。
仕事をしているこちらまで、お腹が空いてくるような香りです。
もちろん、つくっているのは、みんなのごはん。
「今日もいい匂いだな。」
そんなことを話しながら、鍋に向かっています。
ドライをつくっている日は、また違います。
乾燥が進むにつれて、工房に広がってくる香ばしい香り。
鹿肉の香り。
白子をじっくり乾燥させた香り。
わかさぎの香り。
ウナギの頭から立ち上がる、また少し違った香ばしさ。
素材が変われば、香りも変わります。
だから、つくっているものによって、その日の工房の香りまで変わります。
私たちは、ごはんの「おいしさ」を考えるとき、味だけではなく、香りもとても大切だと思っています。
というより、
「食べてみようかな。」
と思うよりずっと前から、ごはんは始まっているのかもしれません。
イベントやPOPUPで試食をしてもらっていると、そのことをよく感じます。
まだ食べていないのに、鼻が動き始める。
少し離れたところから、こちらをじっと見ている。
お皿を近づけると、まずは慎重にクンクン。
そして、
パクッ。
その瞬間に表情が変わる。
さらにこちらを見て、
「もうないの?」
と言いたそうな顔をする。
そんな姿を見ると、こちらまで嬉しくなります。
もちろん、反応はみんな違います。
迷わずパクッと食べる。
じっくり香りを確かめてから食べる。
初めて見るものには、とても慎重。
食べ物の好みも、食べ方も、本当にいろいろです。
だからこそ、その一つひとつの反応を見ることも、私たちにとって大切な時間です。
J's Kitchenのごはんには、食欲をそそるための香料を加えているわけではありません。
工房に広がっているのも、袋を開けたときに感じるのも、素材と調理から生まれた香りです。
肉をじっくり煮込んだ香り。
骨や腱、皮などから旨味が溶け出したボーンブロスの香り。
魚を調理したときの、魚ならではの香り。
時間をかけて乾燥させたドライの香ばしい香り。
素材そのものが持っている香りを、調理することで引き出していく。
それも、私たちのごはんづくりで大切にしていることの一つです。
そして面白いのは、同じ素材でも、調理方法によって香りがまったく違うこと。
鹿肉なら、じっくり煮込むと、シチューやコンソメを思わせるような深い香りが工房に広がります。
同じ鹿肉をじっくり乾燥させれば、今度は香ばしく、また違った香りに変わります。
同じ素材なのに、調理の仕方によってまったく違う表情を見せてくれます。
私たちは普段、「ごはんを食べる」と言います。
でもきっと、私たちが思っている以上に、食べる前からごはんを楽しんでいる。
キッチンから漂ってくる香り。
袋を開けた瞬間の香り。
器を目の前に置いたときの香り。
そして、
「今日のごはん、なんだろう。」
そんな顔でこちらを見る。
その時間まで含めて、毎日のごはんなのだと思います。
身体のことを考えることも、もちろん大切です。
素材を選ぶことも。
つくり方を考えることも。
でも、毎日食べるものだからこそ、
「おいしそう。」
「食べたい。」
そんな気持ちも、同じくらい大切にしたい。
おいしいは、もしかすると、食べるより少し前から始まっているのかもしれません。
今日も工房には、いい香りが広がっています。
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